木兎♀×赤葦♀(R18)












四月の末なのに、暑い。
そう思って木兎がひたいに張りついた汗を拭うと、その下の赤葦はふと止まった手にぼんやりとこちらを見た。乱雑に制服を脱がされた細身は汗だくで、視線もどこかぼうっとした熱を孕んでいる。薄汚れた洋式の蓋の上にぺたんと座らされ、手足は力なくだらりと投げ出されていた。さっきから何度も気をやっていて、もうまともに力も入らないのだろう。

まあどうだっていいやと思って木兎はその身体に覆いかぶさった。赤葦の頭はいやいやをするように小さく揺れたが、気にも留めずその素肌にかぶりつく。

「あっ、あぁっ、ぼくとさん……!」

いやがってみたわりに、嬌声はひどく甘かった。いやらしいオンナ。かたちのいいCカップを揉みしだきながらそう思う。だっていつもは上品におすまししているくせに、こんなふうに一度組み敷くと赤葦はあまりにもかんたんに乱れたメスの顔を見せるのだ。

あのお上品な上っつらを好きだと言った今日の男が今の赤葦を見たらどんなふうに思うだろうと木兎は考え、そうしてすぐにやめた。

赤葦は自分が許さなければ決して他人にこんな表情を見せることはないし、それに、考えたところであの男が赤葦でなく木兎を好きになることもないのだ。

(……いっつも、赤葦ばっかり)

八つ当たるように赤葦を犯しながら、木兎はイライラと数時間前を振り返った。



「昼休み、ちょっと裏庭に来てよ」
そう言って呼び出した相手は、同じクラスのサッカー部だ。今年の春三年に上がって初めて同じクラスになって、惚れっぽい木兎はその日のうちには三浦春馬似の爽やかフェイスを好きになっていた。

ラインはすぐさま交換したし、学校では姿をみるたび積極的に話しかけ、一緒にいるときはご自慢のEカップをグイグイ押しつけることも忘れなかった。あんまり一緒にいるからはたから見ているクラスメイトには付き合っているものと勘違いされるくらいだったし、木兎自身、今回こそはいけると思って告白したのだ。

でも、だめだった。
「アカアシさんって、木兎とよく一緒にいるよね」
「……ゴメン、俺、彼女のこと好きになっちゃって」
「木兎といるのはもちろん楽しいよ、でも、そういうことだからーー」
告げられた言葉は、木兎がもうイヤというほど聞き慣れたそれだ。

全部言い終える前には三浦春馬を殴っていた。全力で殴ったらちょっとだけ三浦春馬似じゃなくなったけれど、痛そうに頬をおさえているのを見たらどうしようもなく涙があふれ出た。

「教室、先、もどってよ」

震える声で言いながら、やっぱりこの男が好きだったのだという未練と、赤葦に対する同性としての嫉妬とで頭がおかしくなりそうだった。

だって木兎の好きな男が赤葦を好きになるのはこれで、もう十数回目のことなのだ。
振られるときに切り出される言葉はいつも同じだった。

「赤葦さんが」「赤葦さんの」「赤葦さんを」

木兎の惚れる男はかならずと言っていいほど赤葦を好きになった。どんなに毎日アタックしても、どんなにおっぱいを押しつけても、その視線は結局となりの赤葦に向かってしまうのだ。(実際は木兎が押してばかりいるせいで相手は赤葦のほうにいくのだけれど、賢くないから木兎にはそれがわからない)

男に振られるたびだからむしゃくしゃして木兎は赤葦を抱いた。放課後になるなり旧校舎のトイレに連れ込み有無を言わせず服を剥いで、抱くというのもやさしくきこえるほど滅茶苦茶にした。

赤葦は声をひそめて喘ぐばかりでけして文句は言わない。木兎のことが好きなのだ。初めて同じようにしたあと我に帰り泣いてあやまる木兎に赤葦はさらりとそう言った。

「俺木兎さんのこと好きなんです。だから腹が立つなら好きなようにしていいですから」

けれど告白したわりに、赤葦は自分とどうこうしろというようなことは言わなかった。ただ今日みたいなことがあると本当に大人しく自分にやられているので、そんならそれでいいやと思って木兎もそうしている。

不器用なのでこういうことはてんで下手くそだったが、木兎が好きだと口にして苛めれば赤葦はあっという間に感じ入ってぐずぐずになるからかんたんだった。

「赤葦、好きだよ、大好き」

赤く染まった耳たぶに呪文のようにささやいて白いお腹を撫でる。無駄な肉のないすんなりとした、しかし女らしい丸みをおびた赤葦の曲線をゆっくりと手のひらでなぞって太腿をたどる。

さっきまで指を入れていたから内側はもうどろどろに濡れていた。ひとりでさんざんいったくせに、木兎が触るとまだ期待にぴくりと震えるのがいやらしい。

「好きだよ」

ささやいてまたつぷりと突き入れた。
「っ! ……ん、んん……ぼくとさん、」
赤葦はのろのろと両手を持ち上げて木兎の首に縋る。赤く腫れた目尻に涙がたまっていやらしく、赤葦がキスをねだっているのはわかっていたけれど望むまま口づけた。

指をくわえていた場所がきゅうときつく締まる。角度を変えてキスしながらばらばらに動かしていると、赤葦は腰を浮かせて喜んでみせる。

「……インランなんだ」

漢字では書けないけどエッチな女のことそういうふうに言うのは知っていた。赤葦は一瞬ぴくりと眉毛を持ち上げて、けれどどうでもいいとでも言いたげにまた腰を押しつけてくる。木兎は笑って赤葦をかき回した。

キレイなキレイな赤葦の、汚い女の部分を自分だけが知ってる。木兎にとってそれはときに苛立ちで、あるいは嫌悪で、そうして、ーーたまらない優越感だった。背中のうしろをそっとくすぐられるような、そんな満足感でもあった。

赤葦といるのはだからやめられない。

一緒にいればまた次好きになる相手が赤葦になびくのをこころのどこかでわかっていても、それでもそばに置いて離せやしないのだ。

諦めたように苦く笑って木兎は赤葦を抱いてやった。さっきまでの怒りや悲しみはもう落ち着いていて、自分の下で切なそうに脚と脚とをこすり合わせる赤葦だけが生々しかった。

キスをして、好きだよ、もう一度ささやいて、いっとう弱いところを抉ってあげる。

「っ、ひ、ぁ、ああっ……!」

びく、びくりと大きく二、三度痙攣して、それから赤葦はくたりと身体を弛緩させた。

半開きの口で一生懸命ふうふう息継ぎをしているのがかわいくて入れたままの指でツンツンと軽く突くと、赤葦はまた身体を震わせてふああと子ネコみたいな声で鳴く。

余韻に鳴くさまをしばらく可愛がって、それからゆっくりと引き抜いた。三本の指はとろりと濡れて銀色に光っている。ぺろりと舐めてティッシュで拭いた。赤葦のはあまり味がしないから同性でもそれほど抵抗がない。

狭い個室でひとり立ち上がって乱れた制服を直していると、赤葦はややあって起き上がり、カラカラとティッシュを回して自分の脚のあいだを拭いた。漏れこぼれた便器の蓋までぺたぺたと跡を消して、それからタイルの床に捨てられた自分のショーツを拾う。

セーラー服は腕のあたりに引っかかっただけ、プリーツもぐしゃぐしゃのスカートはお腹の上までたくしあげられ、ブラジャーなんてどこにいったかさえわからない。

初めとちがって行為には慣れたが終わった後の赤葦はまるで男にレイプされたようなありさまで、そのさまを見下ろすときばかりはさすがにいつも罪悪感がちくんと胸を刺した。

「……赤葦、ゴメンね」

自分の胸のボタンを留めながら、視線は遣らずにぽつりという。
これだけ好き勝手しておいて何を今さらという話だけれど、一応謝っておかないとなんとなく気まずいのだ。それに、そう言っておけば自分には甘い赤葦がゆるしてくれることも内心知っている。

赤葦はしばらく黙って後始末をしていたが、やがてしゅるりと胸のリボンを結ぶと、いいですよと言った。許してくれるという意味なのだろう、木兎は途端にほっとしてその身体にぎゅうっと飛びつく。古びた便座はギシリと軋んだ音を立てたが気にしない。

「赤葦、だーいすき」

行為のあいだに慣れた言葉は自然と口からこぼれていた。甘えるように上目遣いにキスをすると赤葦はくすくすと、なんだかひどくおかしそうな顔で笑う。

「? なんだよ、」
「いえ、べつに。いいですよ、木兎さんの好きにして」
「え、う、うん?」
「ーーだって、俺だって、」

好きって言うたび、アンタが本当にそうなるのを待ってるんだから。

背筋がぞくりと、本能的な恐怖に戦慄いた。知らないうちに罠にかけられていたことはそのときになってようやく知った。何度も口にした言葉はたしかに恐ろしいほど身体のうちに刷り込まれている。

ああ、自分はもう逃げられないのだ。

どこかはっきりとした予感がしていた。赤葦がわざわざ今それをばらしたのだって、きっと計算のうちなのだろう。木兎は単純だからそう言ってしまえば自分を意識せざるを得ないのだと、もういつもの涼しげな顔で微笑む目の前の身勝手な女はよくわかっている。

木兎はそら恐ろしい気持ちで、震える手のひらをその頬にのばした。







(2014.0803)