木赤両想いですが一部木兎さんと女マネちゃんが浮気してる描写があるので苦手に思われる方はどうぞご注意ください






「放課後ウチ、寄ってきますか」

たずねれば隣で制服に着替えていた木兎さんは一瞬目を泳がせたから、ああ、またかと思った。

「……親いないから、寄っていって」

騒がしい部室で周りに聞こえないようささやけばその大きな肩はびくりと震え、やけに重たくうんとうなずく。俺は素知らぬ顔でロッカーを閉じた。

自分と付き合っているはずの木兎さんがまた誰かと浮気した、そんなこと気づいてもいない顔でチームメイトの話を振り返る。今日は女マネの下着が透けてて何色だったとかそんな話題で盛り上がっていたが木兎さんは黙って背中を向けていた。

もしかしてあの内の誰かなのかもしれないなと思いながら、どんな柄が好みだと小突いてくる木葉さんには水玉が好きですとてきとうに返す。この前ヤッたとき木兎さんが履いてたパンツの柄だった。

ガタン。すこし乱暴にロッカーを閉める音が響く。

「……赤葦」

背後で呼ぶ声はいつもより低く、一見すると不機嫌そうなようすで、俺と喋っていた先輩たちはちらりと顔を見合わせてまたちがう話を始めた。

さっきまで俺の肩に回っていた木葉さんの手はするりと離れて制汗スプレーに伸びている。

おおかた「お気に入りの赤葦」をとられて木兎さんがご機嫌斜めになったとでも解釈したんだろう。

ちがうけどまあいいやと思ってスポーツバッグを持ち上げる。帰りましょうかと言って木兎さんを振り返ると、彼は不機嫌どころか不安げに小さくうつむいていた。

主将の情けない顔を隠すようにお疲れさまでしたと挨拶して、俺たちは部室を後にする。

廊下に出ると木兎さんは俺に何かを言おうとして、しかし途中で言いよどんだ。

制服に着替えたバレー部の女子マネージャーたちが連れ立ってやってくるところだった。いじりがいのある木兎さんを見つけると彼女たちは脇腹をつついたり二の腕をたたいたりして、それから赤葦くんお疲れと笑って残して去っていく。

通りすぎる女子高生の花のような甘い匂いにくらりとして、しかし通りすぎるそのうちのひとりにはっとする。背の低い先輩がひとり、こちらを振り返ってにやっと笑ったのだ。

見ようによればただの「さよなら」のかわりかもしれなかった。でも木兎さんとは一年の頃から同じクラスで、特に仲のいい女のひとだ。隣で見送る木兎さんは凍りつくように冷や汗を垂らしてた。(二月ももう後半で、汗をかくような季節でもないのに)

ああ今回はあの人なんだなとため息をついて、俺はひと気のなくなった廊下で木兎さんの手をとった。あの人を抱いた木兎さんの手は俺の手のひらの中で、びくりと震えていた。

「なあ、赤葦俺と付き合ってよ」

おもちゃをねだる子どものような顔で請われたのは去年の秋口のことだ。

帰り道いきなり同性の先輩に言われたからさすがにひどく面食らった。なんでですかって聞いたらおまえのこと好きなんだよってあんまり直球に言うからストンと落ちてしまった。

ハイとうなずいた俺を木兎さんはそれは嬉しそうに犯した。おまえきれいだから部室で着替えてるとこ見るたび興奮してたと俺の腹に吐き出しながら木兎さんは言った。

顔が好きなんですかとぼんやり聞いたらバカそんだけじゃねーよと怒られてもっかいやられた。おまえのこと全部好きなんだよと木兎さんは言った。

全部ってなんだよって思ったけど、木兎さんは頭がわるくて本当に思ったことしか口にはしないから本気でそうなんだろうなとぼんやり思った。

赤葦、かわいい、気持ちいい、好き、明日も遊べたらいいのに、赤葦すげーキレイ、赤葦といんのがいちばん好き。

付き合うようになってぽんぽんと言われた、おそらくその全部が木兎さんの本心だろう。

くだらない冗談に俺がつっこみ入れるたび、子どもじみたワガママにうなずいてやるたび、身体だけは立派に大人のかたちをした男に脚を開いてやるたび木兎さんは飽きもせず好きだとくりかえす。赤葦がいちばんだってひどく嬉しそうに笑う。

――でも、この人は浮気をする。
最初に気づいたのは付き合い始めてひと月くらいのことだったと思う。今度の休みどこ行きますかって聞いたとき表情が硬かったからあれと思った。

つっこんで聞いたら嘘のつけない木兎さんはボロボロと泣いて、ごめん、赤葦ごめんと謝った。俺浮気しちゃったと初めて告げられたときはさすがにショックだったと思う。衝撃が大きかったからあまり覚えてないけれど、呆然としたまま木兎さんの話を聞いていた。

「ごめん、一年の女の子に告られて一回だけしちゃったんだ」
「なんでですか」
「おっぱいおっきくて好みだったから」
「俺より女の子がいいんですか」
「んなの赤葦のほうがいいに決まってる、」
「じゃあどうして」
「だって女の子とするのもやらかくて気持ちいいんだもん」

開いた口はしばらく塞がらなかったと思う。
こんなときまで嘘の吐けない木兎さんを憎たらしく思っていたのに、それでも赤葦のこと大好きなんだよって擦り寄ってくるわがままな手を払いのけられなかった。

自分勝手で傲慢で、そのくせひどく不安な顔で甘えてくるこの人のことを俺はすっかり好きになっていた。俺を誰より好きだと言うこの人のこと、もう見捨てられないくらいにははまっていた。


「……ぐず、ぐすっ、ごめんな赤葦」

ごめん、すまん、ゴメンナサイ。木兎さんはそう言って泣きながら俺の腰を抱えて突いていた。

口ではあやまっているくせにガチガチに勃っていて、後ろから引き抜かれるたび差し込まれるたびキツくてしにそうになる。

ぎゅっと噛み締めていた自分のシーツはよだれにまみれてぐしゃぐしゃになっていた。気持ちがわるくてぺっと口から吐き出すと、ちょうど同時に深い部分を抉られて獣みたいな声が漏れる。ケツの中に埋められたものはびくりと太くなって目眩がした。

ちらりと後ろを振り返ると、さんざ泣き腫らして兎のように赤い目はしかしギラギラとした光をもって俺を見下ろしている。

「あの人とどっちがいいですか」

思わずたずねれば木兎さんは何の迷いもなく俺の名前を呼んで後ろからぎゅうっと抱きついてきた。大きな子どもの手のひらは甘えるように、「やらかくない」俺の胸を撫でる。火照った息を吐き出して、俺はその手に自分の指を絡めた。

数日前誘ってきたあの人はフェラも上手だったしおっぱいにも挟んでくれたし、騎乗位もすんごくよかったと、問い詰めれば木兎さんは隠しもせずにそう言った。

一リットルくらいの涙と鼻水を豪快にたらしながらそう言った。正直すごいまぬけだし、本当にダメな人だ。俺は心底ため息をつきながらティッシュでぐちゃぐちゃの顔を拭いてキスをしてやった。

赤葦、悪いよ、今日はいいよって言うくせに木兎さんの手はちゃっかり俺の腰に回っていた。クズだ。でも好きだ。

行為を再開した木兎さんに貫かれるたび、俺の喉からはあんあんともはや堪えきれない声が漏れた。

赤葦、赤葦、木兎さんは興奮しきった声で俺を呼ぶ。好きな人に呼ばれるたびどうしようもなく気持ちがよくてくらくらする。俺のこと何度も好きだという木兎さんにケツを押しつけながら、俺は木兎さんと寝たあの人のことを思った。

背が低くてスタイルがよくて、後輩の俺たちにもやさしくて、機嫌よく笑うとぺろっと舌の出るかわいいひとだった。気が強くてよく笑うから、木兎さんと喋ってるとすごくお似合いに見える女のひとだった。

あのかわいい人とやった木兎さんは今俺をやってて、赤葦がいちばん好きだからとうわ言のようにくりかえしている。

そんなこと考えていたら射精していた。先に吐き出した木兎さんはさっきまで反省した顔をしてたくせに、今はもう俺の中を楽しむみたいにうっとりと腰を回してた。

ぼうっと見つめていると、やがて目の合った木兎さんはへらりと笑って好きだよという。

「一番ですか」

たずねる声は掠れていた。木兎さんは大真面目な顔でうなずいてみせる。

「そうだよ、おまえがいちばん」
「……そうですか」

そんならもう、どうだっていいや。くたりとシーツに身を投げ出しながらそんなことを思っている俺はもしかするとどこかがすこしおかしいのかもしれない。けれど頭のわるいこの人が言うことだけは、本当のことだった。


+++
タイトルはこっこさんの曲から。
(2014.0224)