※大学生ねつ造です。性的要素は少なめです すこし気持ちわるいかもしれないのでご注意ください 「あー、すずし、……ただいま、岩ちゃん」 居間のテレビをつけながらそう言えば、岩ちゃんはこちらを振り向いておかえりを返す。台所で夕飯を作っているところだった。黒いエプロン一丁腰に巻いて、ぐるぐると鍋をかき混ぜている。 「あれ、岩ちゃん今日もカレー?」 「んにゃ、今日はハヤシ。先週二、三日カレーだったし、さすがに飽きた」 「ああ、うん。そうだよねえ」 うなずいてテレビの音量をてきとうに調整して、俺はハアアと鞄を置く。 「今日、めちゃくちゃ暑かったねえ。すっかり疲れちゃった」 「そうか? べつに、昼はそんなでもなかったけど」 「暑かったよお〜、も〜サイアク! こんな日に限って旧校舎の講義だし! あそこクーラー効きにくいからヤなんだよねえ」 「はは、まあいいじゃん。明日、休みだろ」 「! うん! 岩ちゃんと一日ごろごろする!」 「あー、ハイハイ」 「エヘヘ……」 めんどくさそうにうなずくくせに口元は笑わせて、岩ちゃんはハヤシライスをよそってコトリと食卓に置いた。俺はそうだと思い出し鞄を開けて、買ってきた缶ビールをふたっつのせる。 「あんまり暑いから買ってきちゃったよ」 「おお、いいな」 ついひと月前ハタチの誕生日を迎えてようやく合法的に買えるようになった三百五十ミリリットル。駅前のコンビニで買ってきたばかりだからまだひんやりと冷たかった。プルタブを開ければプシュウと気持ちのいい音がして、苦い泡はひとくち呷るととろんとしてしまうほどおいしい。 座り込んだままふああととろけていたら、ちゃんと夕飯も食べろよと叱られた。大学入って二人で生活し始めてからというもの、もともと世話焼きだった岩ちゃんはますますお母ちゃんみたいだ。はあいとお返事して俺も食事をとる。 今日は教授がこんなことしてねえなんて話をしながら、岩ちゃんと食べる。岩ちゃんはん、ん、とうなずきながらハヤシライスを口に運んだ。たったの「ん」だけど岩ちゃんのそれは「それで」とか「まじか」とかわかるから好き。ときどきガハハッて思いきり笑うところも大好き。岩ちゃんと見つめ合って食べるご飯はだから幸せだ。 ひどく幸福な気分で缶ビール最後のひとくちを飲み干し、ほどよい心地で立ち上がると、先に食べ終えていた岩ちゃんは風呂入ってくっからと残して廊下に出て行った。俺はひとり台所で食器を洗って、それからほとんど入れ違いにシャワーを浴びる。岩ちゃんはどんなに暑い時期でも律儀に湯船に浸かる主義だけど、俺はこの時期はもう簡単に流すだけだから上がるのもすぐだ。 昼間の汗だくをさっさと落としてお風呂を出ると、先に上がった岩ちゃんはハーフパンツだけ履いて居間で扇風機に当たっていた。もうハタチになるのに、おでこ丸出しにしてときどきア〜とかいいながら髪乾かしてるのすごくかわいい。しばらく黙ってにやにや眺めていたら気づいた岩ちゃんにバカって怒られた。うへへ、岩ちゃんに怒られんの、すんごい好き。口に出すともっと怒られるから言わないけど、でも好き。 むっつりと押し黙って扇風機に当たる背中をそのまますこし眺めて、そうしてふと気づく。 「あれ、岩ちゃん」 「ん?」 「……ここんとこ、赤くなってるよ。なに、浮気?」 「あ? どこだよ、」 「ここ、ここ」 背中のまんなかあたりを教えてやれば、岩ちゃんはあっと声をあげる。 「蚊だな、たぶん昨日寝てるときやられた。……あー、なんか朝からかゆいと思ったわ」 「あは、岩ちゃんタンクトップ一枚で寝てるから」 「うっせ、」 夏場はアレじゃねーと暑くて寝らんねーんだよ、ぼやく岩ちゃんの背中、ぽつんと赤い痕はなんとなしやらしい感じがして、背中のあたりがぞくぞくする。 思わずじいっと見つめていれば、気づいた岩ちゃんは眉をひそめて 「髪乾かしてからだぞ」 と言った。ついついにんまりしてしまう。高校の頃は恥ずかしがってむっつりするばかりだったのに、あのころよりすこしだけ大人になった岩ちゃんはこうやって俺を甘やかしてくれる。今すぐキスしたかったけど我慢してドライヤー急いでかける。岩ちゃんはあいかわらず呆れた顔で、しかしどこか落ち着かないようすで、寝室のドアを開けた。 ドライヤーを片づけてあとを追うと、ベッドの端に座っていた岩ちゃんはちらりと俺を見やって自分の下履きに手をかけた。触れられるのを想像してすでにすこしふくらんでいたいやらしさににやにやする。岩ちゃんは舌打ちしてさっさと脱げと言った。 「あちーんだから、さっさとやんぞ」 「やだあ、岩ちゃん積極的〜」 「……折るぞ」 「調子に乗ってスミマセンでした」 くだらない軽口たたきながら服を脱いでシーツの上に座ると、岩ちゃんはかすかに熱を持った視線をこちらに向ける。なんだかんだいうくせに興奮してるの、ホントにかわいい。 かわいいから今日は焦らしてあげる。どこ触ってほしいの、どうされたいの、いじわるにたずねれば岩ちゃんは目元をカアッと赤くして、でも口に出せるような器用な男じゃないからぐっと押し黙って自分の身体に触れる。 むっつりスケベでいくつになってもそういうことは言葉にできなくて、声に出すくらいなら自分でする方を選ぶ岩ちゃんは不器用で素直じゃなくて、ひどくいやらしい。 キツく唇を噛み締め、足の間に手を伸ばす男を眺めながら俺は自分のそれを擦る。岩ちゃんは恨めしい目つきで俺をにらむ。たまらなくぞくぞくする。 「っ、お、いかわ、……っは、も、……っ」 「ん、岩ちゃん、」 もう我慢できないよね、いいよ、ほら。そう言ってゆるしてやれば岩ちゃんは数度扱いてびくりと身体を震わせる。びく、びく、と断続的に痙攣する腹筋は白く汚れていやらしく、背筋をかけのぼる気持ちよさとともに俺もどくりと吐き出した。 ――ぴしゃ、ぽた、ぽたり。 飛び散った精液は目の前のモニタにかかって、むなしい白い線を引いた。 俺の白濁に汚れたテレビモニタの向こうでは息を荒げた岩ちゃんがくたびれた顔をして、ぼうっとこちらを見つめている。緩慢な左手でモニタの音量をすこし上げてベッドに身を投げ、俺はぼんやりと一LDKの天井を仰いだ。 東京の大学に行く俺と、宮城に残って学校の近くで一人暮らしを始める岩ちゃん。 進路の分かれが決まったときは岩ちゃんと別れるなんてとても考えられなかったけれど、でも岩ちゃんは呆然とする俺に向かって二人暮らしをしようと言ってくれた。廊下と居間と寝室と、おたがいの部屋にカメラを置いていつでも相手をそばで見られる二人暮らし。 岩ちゃん俺にずうっと見られてていやじゃないの、たずねたらそんなわけあるかって笑ってくれたし、お前だって俺にならいいだろって聞いてくれた。もちろんそうだった。 だから今はこの部屋のいろんなところにカメラを置いて暮らしている。ふっと視線をやれば岩ちゃんはすぐそこのモニタで、行為のあとの惚けた顏して微笑んでいた。 この部屋で、俺は岩ちゃんとふたりで、暮らしている。 +++ こういうのは書いてて楽しいから好きです もし気に入ってくれる方がいらしたら、最初からもう一度だけ読んで頂けたら、嬉しいです。 (2014.0325) |