なにもかも、薄い感じがする。
自分のベッドに横たわる国見の制服を脱がしながら、俺はいつもそんなことを思った。肌の色も身体の匂いも体毛も、こいつはすべてが薄い。加えていうなら表情だってそうだ。ワイシャツのボタンを外されベルトを抜かれて下着を下ろされても、黒い瞳はひどく無感動に俺を眺めていた。あんまり見るなよって言ったらたぶん国見はごめんってあやまってくれるけど、でもどうせあやまるだけで見るのはやめないってもうわかっている。

しかたがないから手早く済ませてしまいたいのに取り出した国見のそれはまだ全然勃ってなくてちょっとだけ泣きそうになる。俺はこれからえぐえぐ言いながらこれを口にくわえて、そのさまを好きな相手に見られなければならないのだ。恥ずかしくてみっともなくて、ズボンの前がぶるりと震えてしまう。

「金田一、濡らしちゃうから脱いどいた方がいいんじゃないの」

まるで他人事のように国見は言った。それはさながら今日の天気を話すような気軽さだった。まだなにもしてないのに自分ばかり興奮しているのが悔しくて首を横に振る。

「べつに、舐めるだけで漏らすようなヘンタイじゃねえし」
「ふうん」

興味なさそうにうなずいて国見はふああとあくびをした。下半身まるだしでのんびりそんなことできるのスゲーむかつくけどちょっとすごいと思う。でもやっぱり腹が立ってばくりとくわえこむ。他の野郎なんか知らないが国見はそれの味も薄いから舐めるの自体はそんなにつらくはなかった。喉の奥の唾を塗りつけるようにしてしゃぶるのは国見とするようになって覚えた。

脚のあいだに膝をついて手のひらは太ももの上に置いて、身体をまるめてべろべろと舐める。反応もやっぱり薄いけど国見だって俺と同い年の思春期だから硬くなるのにそれほど時間はかからなかった。手で抜いて舌で舐めとって、ほんのすこし苦さのにじむ体液を喉奥に押し込んでまたしゃぶる。

国見はいいこいいこするように俺の頭をときおり撫でていたが、その手をふと下ろしてかわりに足を上げた。なにをと思っていればちょん、と触れられびくりとする。電流が走るみたいな気持ちよさにおどろいて見下ろせば青いチェックのズボンはそこだけまあるく濡れている。

「ほら、やっぱり。金田一舐めただけで漏らしちゃった」
「……!」

ヘンタイだ、とは言わなかったがその一言だけでひどくみじめったらしい気持ちにさせられた。こみ上げる恥ずかしさで鼻の奥がつんと熱くて、顔を上げられずにいればまた頭をゆるゆると撫でられる。

「そういうとこスキだよ」

頭の上から降る言葉はしかしやさしかった。単純な俺はそれだけでほっとしてのろのろと自分のジッパーを引き下げる。がちがちになったそこをやわく揉みこむと痺れるくらい気持ちよかった。二、三度扱いて名残惜しいけど手を離して、それより後ろに指を伸ばす。舌先はまた国見のものに這わせて俺は自分のそこを解しながらそれを舐めた。

国見はただ寝そべってそのさまを眺めている。いつものことだった。国見は俺が目で訴えればしようと言ってくれるけどその代わりそれから先はなんにもしてくれない。ひどいときには最中にメールが着たからそれに返信をすることすらもあった。最初からそうだった。ていうか、最初から国見はひどかったと思う。


「上と下どっちがいい?」

初めてするとき国見は聞いた。決めなきゃいけないことだとはわかっていたけど実際聞かれると恥ずかしくて、どきどきしながら
「お前がどっちでもいいなら上がいいな」
と俺が言うと、国見はわかったとうなずいてベッドに寝そべり、好きにしていいからと言い放った。だからてっきり俺は「する側」なんだと思った。でもちがった。

「する側」なのはたしかに合っていた。けどそれは「国見を気持ちよくさせて自分の身体を自分でやわらかくして入れる準備」をする側のことだった。

だって国見はどちらにせよ突っ込む気でいたのだ。つまり上っていうのは騎乗位で、下っていうのは正常位って意味だった。なんでってびびりながら聞いたら突っ込まれる側のが痛いだろって真顔で言われてなんにも返せなくなった。これから痛い思いをする俺にバッサリ言い切るところもキライになれないから返せなくなった。そんな俺を知っててそういうこと言う国見はずっこいと思う。

「ん、あ、うぅ……っ」
中指がいいところをかすめて思わず声が上がった。ぼたぼたとみっともなく前から垂れてシーツを濡らして、あごが仰け反って国見のものが口からこぼれ抜ける。

自分でするしかないから、解すのはすぐできるようになった。だってちゃんとしないと後で自分自身がつらい。指を三本ぎゅうっと締めて、気持ちいいのをやりすごしてそろそろと引き抜いてシーツに手のひらをつく。

国見はゴムだけはきっちり買ってくれるのでベッドサイドからひとつとって封を切った。不器用だから被せるのはちょっと苦手だ。それでもなんとか四苦八苦して0.3ミリを引き下ろす。白い肌なのにそこだけは赤く充血していて、国見も興奮してるんだってわかるからこのときばかりはすこしだけ慰められた。俺は自分の中を解しているあいだに一回いってしまったがそれでもいくらか気が楽になった。

国見の腰を跨いで膝をついて、手を添えてゆっくりと腰を下ろす。身体の力をふうふうと抜いてなんとか飲み込んでいく。じっと見つめる国見の目にぞくぞくした。行為を始める前はいつものように血の気がなかった頬も今はいくらか上気して汗ばんでいる。無骨な俺なんかよりずっときれいで女っぽい顔立ちをしているくせに、それでも男なんだってどうしようもなく俺に受け入れさせる国見が好きだった。

全部を腹に収めて腰を揺すり始めると、途端にあ、あと声が漏れてどうしようもなくなった。国見とするといつもこうだ。自慰なんかじゃ比べ物にならないくらい気持ちよくなって、なんにも考えられなくなる。なんにも考えられないからばかみたいにあぐあぐ喘いで腰を振る。

国見はときどき苦しそうな、あるいは切なそうな顔をして短い吐息をもらす。男の俺がいくら喘いでも勃たせても国見はちっとも萎えなくてひどく嬉しくなる。嬉しくなって身体をかがめてキスすると、国見はめずらしく舌を絡めてそれに応じてくれた。は、は、と犬のように舌をつきだして続きをねだる。呆れたようにゆるく歯で噛まれてたまらなく満ち足りた気分になる。中のものがぐっと大きくなって国見を抱きしめて腰を振る。

国見も俺もそろそろいきそうで、汚さないよう片手だけ自分のそれに添えようとするとしかし国見につかまれもどされた。腹に飛び散るとどうせあとで片づけをするのは俺なのに、こんなときまで国見は勝手だ。よくなってくるとそのときだけは自分がいいように腰を押し付けてくるのも腹が立つ。おかげでさっきから予想外のところに当たって頭がおかしくなりそうだ、

「あ、っあ、あ――! 」
目の前が白むような気持ちよさで吐き出してぐたりと倒れこむと国見は俺の中でいっていた。ゴム越しだけど感触が伝わって腹の中がじわりと熱くなる。

きもちいい、つかれた、あつい。そんなことしか考えられないまましばらく国見の胸で荒い呼吸をくりかえしていると国見は俺の目を覚ますようにぺちぺちと頬をやった。目だけで見上げれば片付けろって視線が言っている。

めんどうだったけれど互いの腹についた俺の精液はたしかに冷たくてきもちわるくて、しかたがないからのろのろと身を起こした。これだから俺は手でおさえようとしたのにと、口に出すのもだるくて内心ぼやきながら刺さったままのものをずるりと引き抜く。

行為が終わったあとも、国見はやっぱりなんにもしてくれない。ゴムを外して口を縛って捨てるのもだから俺がする。どちらのものかわからない体液で濡れた下腹部を拭いて自分の身体を清めて、力の入らない身体で二人分の服を整えるのも全部俺の役目だ。

けれど乱れたシャツを留めて後始末を終えると国見はひとこと好きだよと言って俺の頭を撫ぜる。そうすれば俺はかんたんだから、かんたんに国見のことをまた好きになってかんたんに自分を許すって知っていてこいつはそういうことをするのだ。

薄い唇はそうして今日もゆっくりとひらく。
「金田一好きだよ」
国見がくちにするその気持ちだけは、決してうすくないことを知っていた。








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そしてなにより内容が薄い
(2013.1223)