※注意※
・花巻♀×及川♀(一部リバ表現あり)
・岩及が前提です
苦手に思われる方はどうぞご注意ください






白いシルクのたよりない、ともすればかんたんに引き千切れてしまいそうなショーツだった。フロントに飾られたフリルはかわいらしく腰の左右にちょこんと結ばれた水色のリボンは清純で、そこはいかにも慣れていない、清らかなままの場所に見える。

まあそんなことはないんだけど、と花巻は下着のクロッチを撫ぜた。目の前の身体はぴくりと震えて、指先にはかすかに濡れた感触がある。

「……やらしーの、」

つぶやけば情欲にとろけた及川はうるんだ目を花巻にむけ、それからふにゃりと笑ってみせる。娼婦のようにいやらしい処女の微笑だった。いつもより湿っているそこを指のはらで確かめながら、花巻は苦々しい思いで薄い唇を噛む。

花巻の部屋に来る前に、及川が岩泉と会っていたのは明らかだった。もう学校終わってずいぶん経つし、花巻がちょうど宿題を終えるころ及川はやってきたからおおかた大好きな「岩ちゃん」と帰り道どこかで寄り道でもしてそうして欲情したからここに来たのだろう。未だ制服を着たままの身体はほんのり汗の匂いがしていたし、なにより下着の色を見ればその想像はすぐ確信に変わった。

及川は岩泉とどこかに行く日、絶対に白の上下しか身につけないと決めているの。普段は黒地にピンクの姫系が大好きなくせにと、花巻は指先に力をこめた。下着の上から弱いところをぐにとつままれて及川はきゃあんと高い悲鳴を上げる。両親が共働きでよかった、及川を抱くたび花巻はそう思った。

「ん……ぁん、マッキー……」

しめった下着をゆるやかに撫でていると及川は焦れたようにベッドの上身をくねらせ、自らの襟に手をかけた。もう我慢が利かなくなったのだろう。ふくよかなCカップの及川は胸をいじられるのがひどく好きだ。

甘えるような視線にそっと目を細めて、花巻は及川のリボンに手を伸ばした。自分では上手く結べないなどとぶって毎朝あるいは部活のあと、それから体育の終わりにも岩泉に結ばせている紺色のリボンだ。しゅるりとあっけなく外して放りながら、これを外すのは自分だけなのだと思ってすこし嬉しかった。

リボンをほどくのもワイシャツのボタンを外すのも、可愛らしいブラを持ち上げその胸にそっと触れるのも、今は花巻だけに許された特権だ。シャツの下にあらわれた肩紐をはずしフリルのブラを手で下にずらして及川のしろい乳房をそうっとつかみ、花巻は唇のはしを持ち上げた。

十八になるまで彼氏がセックスをしてくれないのだと打ち明けられたのは十五の春、高校に上がる前の春休みのことだ。クッションを抱いてぐずる及川を見ながら本当に大切にされているんだなと思い、それから同時に生真面目な岩泉を憎たらしくも思った。だってあの男は十八になるまで及川が自分のとなりにいるものだと何の疑いもなくそう思っているのだ。(花巻の手には一生入らない及川なのに)

むすっと唇を尖らせていたらクッションをはなした及川にキスをされた。おどろいてなんでと尋ねれば及川はけろりとして、してほしそうな顔をしていたからだと言った。花巻にとっては初めてのキスだった。めずらしく慌てた花巻を及川はかわいいと言って、花巻のベッドにとんと倒した。

それが二人の最初だ。以来気まぐれなネコのじゃれ合うように及川とセックスをしている。浮気になるんじゃないのと聞いたら「俺が好きなのは岩ちゃんだけだから浮気じゃないよ」とあっさり笑って及川は花巻を振った。

そうして同じ唇でねえもっとしてと誘うのだ。綺麗な花には棘があるどころのはなしじゃなかった。


及川はまるで、花みたいな毒だ。

うつくしいその素肌に触れるたび、体内にどろりとした気持ちをもたらす毒のようだ。

ブラジャーを外されふるりと震える乳房に吸いつきながら、花巻はそう思う。舌先でちうとやわらかな肉を吸うたび及川はきもちよさそうにくすぐったそうにうふふと笑い、それからひどく女っぽい顔で息を詰まらせた。

未だ自分しか知らないその表情を見るたび、艶めいた声を聞くたび、そうしてその左胸に触れるたび、花巻は飽きずにまた及川のことを好きになる。花巻が告白するより先にその気持ちを残酷に踏みにじった残酷な及川を、そのくせ自分の性欲は当たり前のように花巻に押しつける傲慢な及川を、花巻はまた、好きになる。

きっと自分はもうとっくに、この少女の中毒なんだろう。花ひらきかけたその蕾を下着の上から撫でてやりながら、自嘲気味に花巻はうすら笑った。

フリルのショーツはまるで漏らしたみたいに濡れていて、花巻の下で身をよじる及川はさっきから何度か達しているらしくもう息も絶え絶えだ。唇で胸を責められながらここを触られると、及川はすぐこんな風になってしまう。

かわいいね、思わずつぶやくと及川はぼんやり顔を上げて、それからん、と花巻の腕を引いた。

「? 及川、なに、」
「マッキー、ね、俺もしたい」

してあげる。言いながら及川は花巻の身体をそっと横たえた。それまで及川が寝ていたシーツはむっと汗に濡れていて、自分とはちがうシャンプーの匂いがする。中途半端に制服を着崩した及川が自分の両脚のあいだに割り入って、花巻は火照ったため息をついた。

普段は花巻がすることの方が多いから、及川が上になるのはすこし久しぶりだ。

部屋着に手をかけられ、胸の上までたくし上げられるとそれだけで恥ずかしさに頬の温度が一度上がる。人間の一度ってけっこう大きな数字だけれど、花巻はそれくらい熱いと思うんだからきっとそうなのだ。

及川はぺろりと舌なめずりして花巻のブラジャーに手をかけた。すこし大人びたすみれ色のレースはこの前及川と買い物に行ったとき購入したものだ。及川が可愛いと言ったから気に入って身につけていた。

「マッキーやっぱり、この色の方が似合うね」

ふくらみを手のひらで包みながら及川がそう言って目を細めるので、ああ俺がピンクとこの色で迷っていたの覚えていたんだと花巻は嬉しくなる。

背筋に力を入れて背中を浮かせれば及川はおりこうだねと笑って後ろのホックを外してくれた。ひと回り小さいBカップを正面から及川に見せるのはいつもなんとも言えない気持ちになるが、及川に可愛がられているとそんなのはすぐにどうでもよくなってしまう。

及川のしろい手が薄い肉に触れ、女同士の遠慮なさでそのかたちを変形させる。ときおり弄ぶように胸の先をつまんでひっぱり、ぐにぐにと指のはらで蹂躙する。下腹部はすぐにじゅんと濡れるのがわかった。

及川だって弱いほうだけれど、快楽に慣れていない花巻だってたいがいすぐに濡れてしまう。脚をもじつかせれば及川はうふと笑って花巻の胸にその顔を埋めた。湿った舌にころころと先端を転がされて、あん、と鼻にかかった吐息がもれる。まるで赤ん坊が母親の乳房をつかんでしゃぶるように及川は花巻の胸を吸った。

及川のやわらかい指に、いやらしい舌に責められて重たい熱はあっというまに腰に溜まってゆく。

「んっ、ぅ……はっ、ぁ、あぅ……」
「マッキー、きもちい?」
「ひっ、ああっ! ぅん……おいかわ……きもち、」

れろ、と下から舐め上げられるのが花巻はいっとう苦手だった。それを知っていて及川はそういう責め方をするから身体の芯が熱くうずいてたまらなくなる。気持ちいいけれど胸だけじゃまだ満足に得られなくて、でもさわってと口で言うのは気まずくて、けれど及川に触れられるたび理性はぎりぎりと削られる。脚のあいだが熱くて切なくて泣きたくなる。花巻はとうとう唇を噛んで、右の太腿を内に寄せた。

「っあぁ、あっ……!」

漏らしてしまいそうなほど、気持ちがよかった。あるいは太腿を不器用に押しつけた刺激で、本当にすこしだけ失禁してしまったかもしれなかった。ぴくぴくと震える花巻を見下ろして、及川は呆れたようなため息をつく。

「マッキー、もう我慢できなくなっちゃったの? やらしんだぁー」
「だっ……て、及川、胸、ばっか、」
「ふふ」

インランだね。耳元でささやかれた言葉にカアと朱が走る。どこかまだあどけなさを残した少女の唇から発せられるその言葉には言い知れぬいやらしさがあった。目尻がぎゅっと熱くなって、花巻はますます泣きたくなる。

(だいたい俺が責められるの苦手なの、及川がいちばん知っているくせに)

きっ、とにらめば及川は小さくごめんねと笑って、それからようやく花巻のホットパンツを脱がせてくれた。下着ごとするりと脚からすり抜かれ、膝のしたまで下ろされて花巻は及川をぎゅうと抱き締める。

及川はなだめるようにキスをして、濡れそぼった花巻のそこにやさしく触ってくれた。及川がたしかめるように指を曲げるたびくちゅくちゅと耳を犯す音が恥ずかしいけれど、待ち望んだ快感に身体は震えていてもうとても気にしている余裕はない。

つぷ、と一本差し入れられると、それだけでもう達しそうになる。男とやったことはないが及川には何度も入れられていたし、今日は焦らされてぐずぐずになっていたからすこしも痛くはなかった。

及川の指が身体の内部で、ゆっくりと折れ曲がるのがわかる。大丈夫そうだねとささやいて、及川は遊ぶように花巻の中を引っ掻きはじめた。気まぐれなその指の動きに花巻のしなやかな背中はびくびくとしなる。

「あっ、あっ、んああ、っおい、かわ……」
「はは、マッキーほんとにこれ、好きだよねえ」
「っぅ、」

息を吸って吐くのにせいいっぱいで、否定の言葉はろくに喉から出してはもらえなかった。体内でばらばらと指を動かされると花巻は本当にただ喘ぐことしかできなくなってしまう。敏感な部分に及川が触れるたびかかとはシーツに突っ張り、思い出したように胸を弄ばれるたび細い顎はこれ以上ないくらいに仰け反り返った。

喉が枯れ玉のような汗がひたいを伝って、エアコンをつけておけばよかったと熱の中花巻は思う。六月に入ったばかりの部屋はすこし蒸したけれどせいぜいまだ我慢のできるていどで、だから空調は切ったままにしてあったのだ。リモコンをとってと及川に伝えようにも、ろくな言葉さえつむげない。

どころか他のことを考えているのがばれたのか及川は眉をひそめて、花巻のとびきり弱いところばかりをぴちゃぴちゃと責めはじめてしまった。全身に電気が走ったみたいにびくびくと震えて過ぎる快感に喉が引き攣れる。

「っぁ、あ、……だめ、だめ、もう、」
「ん、」

ぐりっとひときわ弱いところを抉られ同時にキスをされて、花巻はあっけなくいった。筋肉の震えて目の前のかすむ、途方もない気持ちよさによだれをたらし、及川の指をみっともなくぎゅうっと食い締めて何度となく襲いくる気持ちよさに打ち震える。及川はひどくうっとりした目で自分を見下ろしていた。その視線がはずかしくてあ、あ、と花巻はまた短く達してしまう。ほほえむ及川の目はやさしく、どこかに隠し切れない嘲りを含んでいた。

弛緩した身体からゆっくりと引き抜かれるころには、すっかりくたりと、気怠くなっていた。それでもとろりと体液に濡れた指を目の前で舐られるのが気まずくてのろのろと身を起こし、ねえ、俺もと及川の肩に手をかける。したいからとささやけば及川は指からくちを離して花巻にキスをした。きっと数時間まえには岩泉とそうした唇だった。それ以上を考えたくなくて及川をベッドに押し倒す。

スカートだから下着を脱がせるのはかんたんだった。もはや下着の役割を果たさない布切れを放り捨て、とろとろに濡れたそこを及川がしてくれたように指でなぞると背筋をまた欲情がはしる。

かたちのいい及川の胸にしゃぶりつきながら、やっぱりこうするほうが好きだなと花巻は思った。今日みたいに気の向いた及川にしてもらうのももちろん好きだけれど、それよりも及川をよくしてあげたいから花巻は自分が上になる方が好きだ。

かわいいほっぺにキスしてすこし身を乗り出して、片手はようやく窓辺のリモコンにやった。ピ、と冷房を入れると、及川は放っておかれたのを拗ねたように腰を押し付けてくる。(俺のことやらしいなんて笑ったけど、及川のほうがずっとそうじゃない)

機嫌よくリモコンを窓辺にもどした花巻の唇はしかし不意にきゅうと結ばれる。カーテンがすこし揺れたはずみに外には雨が見えた。

憂鬱な雨だ。
花巻は六月なんて大嫌いだ。大好きな及川の大好きな彼氏が生まれた月だから大嫌いだ。

腹の底にたまった毒を撒き散らすように及川の首筋を噛む。いや、と及川は小さく首を振ったが気にもせず及川の女の部分を強く指で押した。白い身体は途端に抵抗する力をなくして花巻の下で震えることしかできなくなる。

いやらしい及川のからだ。最初は好奇心と不安で満足に感じることのできなかったそれを花巻が愛でて、何年もかけて手入れをしたからこんなふうになった。花巻が大切に育てた花だ。

そうしてこの花は一週間後、なんにも知らない男に手折られる。

十八歳の誕生日、約束のその日に及川は本当に岩泉のものになってしまうのだ。そうしたら花巻の手はもう及川に触れられない。一週間後の及川はもう高嶺の花だ。それを思うと花巻はたまらない気持ちになる。

抑えられない気持ちをぶつけるように自分の胸を押し付けて、及川が窒息するほどに唇を奪って、そうして、――誰かに手折られる前に、及川を手折ってしまいたい欲求で身体がいっぱいになるのだ。

花巻は、震える指をそこに押し当てた。撫でれば身をくねらせて悦び、舐ればもうだめと首を振るその場所に、しかし指の先でも入れようものなら及川はいつだって激怒した。

「だめ、だめ、岩ちゃんだけなの、汚い手で触らないで」

そんな罵声を浴びせられたことだって、一度や二度のはなしではない。及川は岩泉の前に処女でなくなることをひどく恐れていたのだ。ごくりと唾を飲み込んで、花巻は中指を立てた。いつもとちがう動きをする指さきに気づいた及川がとろんとした顔を不思議そうに上げる。その瞳に写った自分の姿にひどく満たされ、花巻は微笑みながらそこに指を突き刺した。容赦のない掌に思い切りべちん、頬を張られるのと、それは同時のことだった。


「ねえ、及川どうして俺をえらんだの」

シーツに身をくるみ真っ赤になった頬を手で押さえながら、ハイソックスを履きなおす背中にたずねれば及川はふりむきもせずにマッキーは女の子だからだといった。きっと、女の子だったら欲にまかせて無理やり犯される心配もないからというだろう。(まあ指は一本入れちゃったけど)

くたびれた顔で笑いながら、花巻はすこし悲しい気持ちになる。だって「女」であるなら及川は地球上のほとんど半分、そのうちの誰でもよかったのだ。やっぱり聞かなければよかった。数分前まではもうすこし特別な言葉を期待していた自分がばからしかった。

愛し合っていた及川の手のひらは床に放り投げたエナメル鞄をつかむ。紺地のハイソに包まれた足はぺたぺたと花巻から遠ざかってゆく。外では六月の雨が及川を待っていた。

きっとこれでもう最後なんだ、終わりを覚悟して花巻はそっと目をつむる。及川が部屋を出て行く背中は見たくなかった。

ぺた、ぺたり、ぺた。あしおとはドアの前でそっと立ち止まる。

「最初はだれでもよかったけど、――でもマッキーとするの、けっこう好きだったよ」

じゃあねと言って、及川はドアを開けた。おどろいて目を開けた花巻が最後に見たのは、ふりかえった彼女の花のようにうつくしい微笑だった。




(2013.0925)