※及川女体化+えろなので注意してください※
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その日、及川はいつになくご機嫌だった。

いつもなら俺のをくちで一度飲んだあと我慢できなくなって岩ちゃんいれてと脚をひらいてくるのに今日は二回も三回も舐めたがったし、安全日にゴムをつけると不機嫌になるのにすんなりとそれを許し、おまけに最後は正常位でもやらせてくれた。(普段は及川の希望で上に乗せるかあるいは後ろからするのがほとんどだったからこれは嬉しかった)

いったいおまえどうしたんだ、かたちのいいCカップに飛び散った精子をティッシュで拭きながら尋ねれば及川はとろんとした目を開け、それからうふふと笑って言った。

「岩ちゃん俺ね、女の子の友だちができたの」

衝撃的なセリフだった。おもわずティッシュを取り落とし、目からうろこも落ちている。及川は機嫌よく笑って指をのばし、腹に残った俺の精液を舐めた。女がそんなはしたないことするんじゃないと普段なら口うるさく言ったろうが今はとてもそれどころではない。

「……及川、よかったな」

喉を通って出た言葉は思っていたよりずっとしみじみしていて自分でもすこしおどろいた。

「えへへ、ありがと」

そう言って微笑む及川はいつになくかわいく見える。つかのま見下ろして、清めたばかりの太腿に無言で擦りつけると及川はくすぐったそうに笑い、それから「きて、」と俺に両手を伸ばす。ゆるやかなひたいの曲線に、俺はゆっくりとくちを寄せた。


及川に女友だちができるのは、おそらく、俺の知る限りでは幼稚園で一緒だったアヤちゃん以来のことだ。それから高三の今まで及川にそんなものがいたという話は聞いたことがない。及川は自分のことをなんでもぺらぺら俺に話すから、その及川が言わないということは実際いなかったということだろう。

及川はすぐ同性に嫌われたし、すぐ同性を嫌いになった。原因はほとんどが男である。誰かの彼氏や好きな相手が及川を好きになれば、向こう側の女はみんな及川を逆恨んだ。及川はそんな女子たちを鼻で笑ってバカにした。そうしてひどいときは髪の毛をつかみ合う喧嘩に発展することもある。あんなに仲のよかったアヤちゃんでさえ、大好きなケンくんをとられて年長さんの頃には及川と犬猿の仲になっていた。

及川はとかくもてる。ひかえめに言ってそこらのアイドルとくらべても劣らないくらい整った顔をしているし、ほどよく肉のついた白い身体は制服の上から見たってたまらなくそそられる曲線だ。

おまけにノリだって軽い。教室でも廊下でも見知らぬ男と絡んでいるのはたびたび目撃する。実際及川は俺以外の男に興味がないのを知っているからたいして気にはならないが、話しかけられている方の男はきっと勘違いしてもしかたがないんだろう。可笑しいことがあるとすぐに二の腕をつかんだりつついたりするピンク色の爪は、それはおそろしい凶器だった。及川に惚れて振られて泣く男も、男をとられて泣く女も、今日も明日も増えてゆく。


そんな中で及川が「友だち」とはっきり口にするほど仲のいい女子ができたのはよろこばしいことだった。

「どこのクラスのやつなんだ?」

今度こそ行為が終わってたずねれば、及川は「三組のMちゃん」とその子の名前をくちにする。歌うようなかろやかさだった。高校も終わりにさしかかって、しかしようやく出来た女友だちがよっぽど嬉しいのだろう。それは俺の方からキスをしたときとおなじくらいには嬉しそうな顔だった。つられて俺まで鼻歌でも歌いたいような気分になる。

「おばさんまだ仕事だよな。今日は夕飯、俺が作っていってやろうか」

得意料理カップヌードル(日清)系女子の及川にそう言えば、及川はやったあと叫んで俺の腰に抱きついてくる。ふわりと柑橘のシャンプーが香って、わきばらをかすめるくせ毛がくすぐったかった。


そうして「三組のMちゃん」は俺も知っている子だったのだと、次の日学校に行って気がついた。俺と及川は五組だったが、その子は洗濯美術で及川と同じクラスだったから及川を迎えに行ったときに何度か顔を合わせている。

黒髪を耳の下で二つに結んだおとなしそうな子だったが、遠めに見た渡り廊下では及川とキャッキャと笑い合っていたから案外うまが合ったのだろう。ふしぎなものだ。

俺にべったりだった及川は、それからときどき彼女のところに遊びに行くようになった。今日はMちゃんとこんな話した、お菓子作ってきてくれた、明日は一緒に遊びにいく、及川の口から出るMちゃんの話題は日に日に増えていく。及川は楽しそうだった。

「昨日は一緒にプリクラ撮ったんだよ〜、いいカンジに撮れたから携帯に貼っちゃった!」

うんうんそうか、よかったな。うなずいていると今度は彼女が俺たちの教室にきて及川を連れて行く。ねえアレ及川どうしたの? クラスの女子が思わず怪訝な目線を送るほどには仲のいい二人だった。


そうしてとうとうある日、
「岩ちゃん今度のお出かけ、Mも一緒でいい?」
と及川は俺に聞いた。このころにはMと呼び捨てるようになっていた。いいぞとうなずけば、及川はひどくうれしそうにぴょんと跳ねる。五月の中間が終わったら出かけようと言っていた買い物のことだった。及川がそんなふうに俺と自分の知り合いを引き合わせるのは、それが初めてのことだった。

翌の土曜日は快晴で、俺たちは駅前で待ち合わせてとなり町にある大型のショッピングモールに行った。及川とMは以前おそろいで買ったというシュシュを髪に巻いて、まるで姉妹みたいに俺のとなりを歩く。

「今日はなにみよっか」
「下着買いたーい」
「えっ、でも、岩泉くんが、」
「いーのいーの、岩ちゃんのことは黙ってついてくる置物だと思って!」
「(……ついてくる置物って、その時点で置物じゃねえだろうが)」

オラ、及川あんまり無茶言って困らせんじゃねえ。そう言って小突くと、Mははにかんだ顔でそれを笑っていた。


けれど笑っていられたのも最初のうちだった。
「…………ハア、」
赤くなった両手をさすり、通路わきのソファにどっかと座って俺はため息をつく。女同士の買い物は、それはおそろしいほどの長期戦だった。正直いって俺は十八年間女子をなめていた。そう思うくらいのやつらは脚力だ。パンプスとかいう高さのある靴を履いているくせによくもそんなに同じ店を何度も迷って行き来できるものだ。呆れを通り越していっそ感動してしまう。

しかもその間やっぱりあの服がいいとかあっちの帽子のほうが可愛いとか延々きゃあきゃあ話しているんだからまったくすごいと思う。おかげさまで俺に渡された二人分の荷物はもはやとんでもない量になっていた。さっきから怖くて紙袋の数はかぞえていないが、へたをするともう二桁に近い個数になっているかもしれない。げっそりだ。

二人してトイレに行ってくれたからようやく一息つけている。となりで同じように疲れた顔して子どもをあやしている若い父親にはひどく親近感を抱いた。

つかのまの子どもの笑顔に癒されていると、「待たせちゃってごめんね、」Mがひとり先に戻ってくる。べつにいいよと首を振った。

「及川で慣れてるし」
「徹ちゃん、仲、いいんだね」

付き合ってないって言ってたけど。Mは小さな声で付け足した。ああそういえばと思い出す。Mにはそういうふうに話してあるから岩ちゃんも合わせてねと及川は言っていた。なんでも打ち明けるのが恥ずかしいから、そのうち折りを見て話したいのだそうだ。及川がそんなふうにいうのはめずらしかったが、逆にいえばそれだけMが大切な友だちなのだろう。

「……あんなやつだけど、仲良くしてやってくれよな」
「徹ちゃん? うん、もちろん!」

Mの笑顔はまぶしかった。地味なタイプだと思っていたが、笑うと小さな八重歯が見えて愛嬌がある。つられて俺も口の端を持ち上げた。

「――岩ちゃん、」
「あ、及川」

いつのまに戻ってきていたのか、すぐそばに及川が立っている。ちら、とMを見るとおまたせと言って、及川は俺の腕をつかんだ。

「ね、さっき岩ちゃんの好きそうな下着あったし選ぶの付き合って」
「ッ! おま、」
「えへ、いちご、岩ちゃん好きだもんね?」
「!! 大きな声でそういうこと言うんじゃねえ!」

慌てて及川の口を手で塞ぐと及川はあははと笑っていたが、その目はどこか、笑っていなかった。


それから、おかしい、と気づいたのは数日後のことだ。
及川はぱったりとMの話をしなくなった。休み時間どこかに行くことはめっきりなくなったし、それまで週の半分はMと帰っていたのに今では毎日俺の部活が終わるのを待つようになった。きわめつけ選択美術の時間になると決まってお腹が痛いと言って保健室にいく。

「なあ、Mと喧嘩でもしたのか?」

久々に及川の部屋に行った日たずねれば、振り返った及川はきょとんとした顔で、そんなことないよと首を振った。

「じゃあなんで最近あいつのとこ行かねえんだよ?」

つっこめば及川はけげんな目をして、あんな子友だちじゃないよという。わけがわからなかった。

「おまえ、この前はあんな楽しそうに喋ってたじゃん」
「前はそうだけど、でも今はちがうもん」
「なんで」
「……」

及川が黙り込むのはめずらしかった。普段は俺が一を聞けば十を喋るようなやつだ。よほど話しづらいことでもあったのだろうかと思っていると、及川はベッドのうえ膝をかかえて、

「あの子、岩ちゃんのこと好きなんだって」

とぽつり言った。思いがけない言葉だった。だってMとまともに話をしたのはこの前出かけたただ一日のはずだ。そんなに急に好きになったりするのものなのか、及川に聞けば、及川はふくれっつらをして口をひらく。

「去年、カッターで指切って、それで保健室で岩ちゃんにばんそうこうもらったんだって。……岩ちゃん、保健委員だったもんね」

痛くて泣いてたら、そのとき持ってたお菓子もくれたって言ってたよ。及川はそう言うけれど、俺自身に覚えはまったくなかった。たしかに保健委員だったが、年間の保健室利用者なんていちいち覚えているわけもないし、Mを見たのも、及川と一緒にいるときが最初だと思っていたくらいだ。そんなことがあったとは寝耳に水だった。

「……けど、それくらいで友だちじゃなくなるなんて、」
「それくらい、じゃないよ」
「っ、」

及川の声はひどく真面目だった。それくらいじゃないんだよ。及川はくり返す。だってそれは、俺にとってはこれ以上にない裏切りだもの。

「だからいらないの。岩ちゃんのこと好きな子なんて、いらない。そんなの、友だちじゃない」
「……及川、」
「岩ちゃんには俺がいればいいし、俺には岩ちゃんだけいれば、それでいいんだもん」

ねえ、岩ちゃんそうでしょ。うつむいたまま、俺の裾にぎる手が震えている。なにも言えなかった。ただその肩を抱き締めて、ぐす、ぐす、と時折りぐずる頭を撫でてやる。

おそろいで買ったシュシュはよく見ればゴミ箱の中にそのまま捨ててあり、シーツの上に放り出された及川の携帯はそこに貼ってあったはずの写真が剥がされて白く醜い痕をのこしていた。及川は手先が不器用だから、きっとこの痕はこれからずっと残るのだろう。

岩ちゃん、抱いて。せがむ及川の小さな身体をそっとシーツの上に横たえながら、腹の底からわきあがる感情に俺は震えていた。

及川が俺以外のだれかを特別にしなくてよかった。こころの底から、そう思っていた。






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タイトル:あーばんぎゃるどから。個人的には最近こまーしゃるそんぐが熱いです
二次元の嫌な女って大好き。岩ちゃんの方が病気っぽいよなーと思っている
(2013.0625)